遺伝子治療とは
遺伝子治療はヒトへ導入された遺伝子が体内で機能することにより治療効果を得られる方法であり、遺伝性疾患や癌の治療方法の一つとして半永続的に効果が期待できることから、これまで世界中で研究が進められてきました。レトロウイルスベクターを用いた世界初の遺伝子治療が1990年に実施されてからこれまで安全性や有効性の改善を積み重ね、アデノ随伴ウイルス(以下AAV)やレンチウイルスベクター(以下LV)などを利用したいくつかの遺伝子治療薬が承認されるまでに成長しました。現在もさまざまな疾患を対象に、多くの治験が実施されています。急激な成長を遂げていることから製造技術や法整備が追いついていない部分もありますが、治療効果の高さから今後も開発は進み、合わせて遺伝子治療の道具となるウイルスベクターもより効率的なものへと改良されていくでしょう。
ウイルスベクター製造とは
遺伝子治療医薬品の製造プロセスは、主にプラスミド製造、ウイルスベクター製造、細胞加工の3工程のうち、必要な工程を選択して実施されます。なかでもウイルスベクター製造は、現在開発が進められている遺伝子治療薬の多くが細胞への遺伝子導入方法としてウイルスベクターを採用していることから、大変重要な工程です。一方、治療に必要となるウイルスベクター量は増加傾向にあり、商用生産に向けたスケールアップ技術は重要な検討課題の一つとなっています。
遺伝子治療に使用されるウイルスベクターは、対象疾患や、遺伝子導入がin vivoかex vivoかといった使用目的に応じて選択されます。ここで使用されるウイルスベクターはウイルスとしての性状は必ずしも同一ではなく、エンベロープの有無や安定性、ウイルスサイズによるろ過の可否、ウイルス回収時の細胞溶解の要否などを考慮して、適した製造プロセスを選択することが重要になります。また、対象疾患の患者数と投与量に基づいたバッチサイズも、もう一つの重要なファクターです。
ポールのウイルスベクター製造ソリューション
ポールは、ウイルスベクター製造のニーズに対応した製品を、幅広く提供しています。プロセス開発の途中で直面しうるさまざまな課題に対して、何らかの解決方法をご提案します。
End-to-Endの製造工程最新トレンド
接着細胞培養法か浮遊細胞培養法か?
ウイルスベクター製造における細胞の培養方法としては、接着細胞培養法もしくは浮遊細胞培養法のいずれかを選択します。浮遊培養法と接着培養法のどちらも長所短所はありますが、いずれを採用するにしても、上市時に必要となる年間生産量や、現時点で利用できる技術、開発にかけられる期間を考慮して決定する必要があります。
学会やウェビナー等で発表されたプレゼンテーションをオンデマンドで視聴できます。
日本動物細胞工学会(JAACT)2020年度国際大会JAACT 2020での発表:Commercial viral vector manufacturing: Current and future state, challenges and opportunities, Dr. Rachel Legmann
最新スケールアップ事例
ウイルスベクター製造で培養方法を選択する際に考慮すべき点は?
Bioinsights記事
※iCELLis シングルユースバイオリアクターをお使いでない方もダウンロードいただけます。
細胞除去・清澄化
細胞除去・清澄化工程は、培養方法の違い(接着細胞培養または浮遊細胞培養)、細胞溶解工程の有無およびプラスミド使用の有無などを考慮して選択します。デプスフィルター等によるデットエンドろ過方式が利用できます。ウイルスの吸着を低減したデプスフィルターを選択することがポイントです。LVでは特にシェアストレスによる失活が懸念されます。孔径の大きいタイプを用いて循環流速を至適化する必要があります。
精製・ポリッシング
イオン交換メンブレンクロマトグラフィーが利用できます。メンブレンクロマトグラフィーはスケーラビリティやコスト、作業性の向上が期待できます。AAVでのトランスフェクション法では、目的とするDNAを内包するいわゆるFull Capsid以外にも、DNAを含まないEmpty Capsidを始めとした不完全なウイルス粒子が大量に製造されることが知られています。イオン交換メンブレンクロマトグラフィーはEmpty Capsidを除去できる方法の一つです。
濃縮・脱塩
濃縮・脱塩工程では、限外ろ過膜によるクロスフロー方式が利用できます。さまざまな分画分子量(MWCO)や膜材質、膜面積より、ウイルスベクターや製造工程に適した製品を選択します。また、運転条件を至適化することで、シェアストレスを低減し、必要に応じて不純物の除去を行うことも可能です。シェアストレスの低減には、循環流路のない、シングルパスTFFも有効です。
Tangential Flow Filtration (TFF) の詳細はこちら »
ろ過滅菌
ろ過滅菌工程では、ウイルスベクターのサイズによって回収率が著しく低下する可能性を考慮する必要があります。AAVは比較的容易にろ過による滅菌が可能ですが、LVはサイズが大きく、条件検討が必要です。ポリエーテルスルホン膜を使用したろ過滅菌グレードフィルター Supor® EKVは、さまざまなウイルスベクターのろ過滅菌に利用されています。
培養工程から製剤化・充填工程まで、ウイルスベクターの製造プロセスのシングルユース化はお任せください。
ウイルスベクター製造に関する技術を知りつくしたプロフェッショナル集団が、お客様のプロセス開発をサポートします。