研究背景

Acrodisc PSFシリンジフィルターはHPLCカラムの寿命を大幅に延長します。



微粒子を含んだ試料を注入すると、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)カラムがやがて目詰まりを起こし、そのカラムが接続されたインジェクターの寿命も縮まり、送液ポンプのメンテナンス作業が増大する結果となります。カラムに微粒子が蓄積すると、カラムの背圧が増し、バンド形状が歪み、プレートの理論段数が小さくなり、結果的にカラムが劣化し、そのHPLC分析結果に様々なノイズが混入し、分析結果解釈するのが困難になります。

HPLCアプリケーションにおいて、通常、微粒子除去用に選定されるのは、孔径0.45μmのシリンジフィルターです。この実験では、試料のろ過を行わない場合とPall™ Life SciencesのAcrodisc PSFシリンジフィルターでろ過した場合、また他社製品でろ過した場合のHPLCカラムの寿命(カラムが目詰まりを引き起こすまで)を比較した研究結果をまとめました。

その結果、カラムの寿命は、試料中の微粒子量に依存し、実際にどれくらいカラムの寿命が延長されるかは、場合により異なることがわかりました。アクロディスク PSFシリンジフィルターによりろ過された試料をHPLCカラムに972回の注入後も実質的にカラムの背圧が増加することなく、HPLCカラム寿命を大幅に延長しました。

HPLCカラムの劣化の背景



HPLCのカラムの劣化には主に4つの原因(目詰まり、亀裂、サンプルの吸着、薬品による腐食)がありますが、その中でもっとも頻繁に見られるのが目詰まりです。微粒子を含んだ試料を注入していくと、やがてHPLCのカラムの目詰まりが起こり、カラムの背圧が増し、カラムの寿命が短くなりますが、試料をろ過しておくと、送液ポンプ部品や注入機、検出装置の運転で発生するトラブルが少なくなります。HPLCアプリケーションにおいて、通常、微粒子除去用に選定されるのは、孔径0.45 µmのフィルターですが、HPLCカラム劣化を防ぐ最適なフィルターを選出しないと、カラムの交換が頻繁になり、結果HPLCを用いたワークフローに掛かるコストやメンテナンス時間が増大してしまいます。

HPLC分析のために、試料の前処理としてろ過を行うことは重量視されています。試料をカラムにインジェクションする前に、ろ過するとHPLCカラムの寿命が延長されるが一般的に認められたはいますが、カラム寿命の延長を十分に定量化したデータはあまり知られておりません。この研究の目的は、HPLCのサンプル調製用のシリンジフィルターを選択する際に、フィルターの効率を考慮することが重要であり、ろ過によってカラムの寿命が長くなるということを実証することです。

この研究では、0.45 µmの平均直径のラテックス粒子を用いて、HPLCの試料をろ過する目的で使用される、孔径0.45 µmのPall™ Life Sciencesと他社の3つのシリンジフィルターの粒子の膜保持効率を調べました。この研究においては、ろ過による試料の調製とシリンジフィルターのラテックス粒子の膜保持効率の測定において十分な再現性が示されました。各シリンジフィルターのラテックス粒子の膜保持率を、実際のHPLCのカラムへの適用と相関させるために、試料のろ過を行わない場合とAcrodisc PSFシリンジフィルター、または他社製品でろ過した場合のHPLCカラムの寿命(カラムが目詰まりを引き起こすまで)を定量化して比較、検討を行いました。

試験方法



試験材料

  • ラテックス粒子と界面活性剤は、Sigma社から購入しました。ラテックス粒子は、平均直径0.45 µmを使用しました。
  • L/N 31K1123, Cat #: LB-5, Triton X-100 L/N: 121K0090, Cat #: X-100
  • 孔径0.45 µmの25 mmシリンジフィルターは、Pall™ Life Sciences製品とA社、B社の計3社の製品を使用しました。
  • Pall™ Life SciencesのAcrodisc&®PSFシリンジフィルター (GHPメンブレン) を使用しました。: P/N AP-4557, L/N: A224102521, A224227411, A22422044 (現在この製品は、販売終了しております)
  • A社は、PVDF膜を搭載したシリンジフィルターです。 L/N: F2EN42569, F0BN28908, F2NN83751
  • B社もA社と同様にPVDF膜を搭載したシリンジフィルターです。L/N: 11067, 11146, 99297
試験装置
  • 高速液体クロマトグラフィー (HPLC)
  • Waters (Milford, MA, USA) 616 ポンプ
  • Waters 600s コントローラー
  • Waters 717plus オートサンプラー
  • 紫外可視分光光度計 (UV/VIS), HP 8452A ダイオードアレイ
カラムの仕様
  • Luna 5 µm C18(2), カラムは、Phenomenex (Torrance, CA, USA) から購入しました。: サイズ : 30 x 3.0 mm, P/N: 00A-4252-Y0, S/N: 160111-3, 159485-4, 159742-3, 159485-3



ラテックスの懸濁液の吸光度測定には、紫外可視分光光度計を使用しました。ラテックス懸濁液の最大吸光度は272 nmで観測され,ラテックス粒子濃度と吸光度の相関をとるために使用しました。ラテックス粒子を含まない0.1% Triton X-100の界面活性剤溶液をブランクとして272 nmで吸光度を測定しました。0.0025%, 0.0050%, 0.0075%, 0.01% 0.45 µmラテックス粒子濃度の一連の標準溶液を作成し、検量線の作成に使用した。ラテックス粒子の濃度と吸光度の間には、Beerの法則に従った直線関係が成立していることが確認されました。相関係数は0.9999でした。保持効率の検討には、0.01% 0.45 µm 平均直径ラテックス懸濁液を使用した。この溶液を個々のシリンジフィルターに通し、3 mLの溶出液を採取して272 nmで吸光度を測定しました。各社3つのロットのシリンジフィルターを試験しました。

HPLCは、カラムの詰まりに関する研究に活用されました。カラム寿命は、初期背圧と注入後の背圧を比較することで評価しました。新しいLUNA* C18(2) 00A-4252-Y0 カラム (S/N: 160111-3) を設置し、カラムの出口を検出器から切り離し、液を流出できるようにしました。このセットアップにより、迅速なインジェクションが可能になり、カラム背圧をより効率的に測定することができます。移動相にはアセトニトリル:水(35:65 (v/v))を使用し、流速は1 mL/minとしました。カラム温度は25 ℃で制御しました。システムは、毎回50 µLが自動的に注入されるように設定しました。カラムの詰まりを試験する溶液は、0.002% Triton X-100, 0.05% (w/w) 0.45 µm平均直径ラテックス粒子から構成されています。まず、この溶液をろ過をせず注入し、カラムがどの程度耐えられるかを確認しました。カラムが詰まった後(カラム背圧が241.3 bar (507.6 kPa) に達した)、新しいLUNA C18(2) 00A-4252-Y0 カラム(S/N:159485-4)を設置しました。今回は、同じラテックス懸濁液をA社のシリンジフィルターでろ過を行ないました。A社のシリンジフィルター30枚(3ロット各10枚)を用いて30サンプルを作成しました。インジェクションはサンプルバイアル1からバイアル30まで行い、この順序で繰り返しました。カラム背圧は注入回数とともに記録しました。この手順を新しいカラム、S/N 159742-3および159485-3で繰り返し、それぞれB社およびPall™ Life Sciencesのシリンジフィルターを用いた試験を実施しました。

結論:HPLCサンプルのプレろ過の重要性



3社の0.45 µm孔径のシリンジフィルターのうち、ラテックス粒子の平均除去率がもっとも高く(94.9%)、ロット間格差も小さいのはPall™ Life SciencesのGHP膜のAcrodisc PSFシリンジフィルターでした。HPLCシステムへの注入前のサンプルろ過が必須であることも実証されています。データからは、同じ除去定格を持つ各社メーカーの同等レベルのシリンジフィルターでも、その除去性能が異なることがわかります。Pall™ Life SciencesのGHP膜のAcrodisc PSFシリンジフィルターは、HPLCカラムの背圧を大きく増すことなく、そのカラム寿命を46倍延長することができました。