Hospital Water Hygiene研究会(https://fs.lck-cloud.jp/u13673/)は医療機関での水の衛生管理についての新情報を取り扱う学術集会を2020年11月28日から12月18日までの期間、オンラインで開催しました。この学術集会の中で、国際的に活躍する水の衛生管理の専門家であるスザンヌ・サーマン・リー博士がPall Corporationの共催セミナーとして「COVID-19感染状況下における建物での安全な水の管理」をご発表されました。

スザンヌ・リー博士は、公衆衛生微生物学者として35年以上のご経験をお持ちで、英国の国民保健サービス、大学部門、そして公衆衛生研究所サービス(Public Health England)において、臨床および公衆衛生微生物学の両方に携わってきました。

スザンヌ・リー博士は、英国健康保護庁(HPA)のレジオネラ菌アウトブレイク調査チームのメンバーであり、EWGLI(欧州レジオネラ感染症研究グループ、現在は「レジオネラ感染症におけるESMID研究グループ(ESGLI)」)のアクティブメンバーでした。スザンヌ・リー博士は、英国王立公衆衛生協会(RSPH)の水に関する分科会の議長で、RSPHの水に関するウェビナープログラムを自由に設定できるプログラムディレクターでもあり、政府や保健省、WHO発行となる、水系病原体の管理に関するガイドラインや勧告の共著者であり、その他数多くの科学論文を発表されています。

講演内容の概要

飲料水の微生物学的品質は、糞便指標がないことに基づいており(World Health Organization ,2017[1])、ゴールドスタンダードとして受け入れられ、世界中の法律に組み込まれています。 しかし、糞便指標がないことは、すべての種類の使用に対して安全な水であるとは限らず、特に水系病原体を含む感染症への感受性が高い人にとっては、安全な水とは言えません。 このことは、医療機関のように、水が食事の準備、飲用、個人の衛生、洗濯などの通常の目的だけでなく、患者の診断や治療、内視鏡などの器具の除染や洗浄にも使用される施設では特に重要です。このような目的のために必要な水の品質は、用途の種類、潜在的な暴露モード、および患者の感染症への感受性によって異なります。 水系感染症のすべての潜在的な発生源、さまざまな暴露経路、患者、訪問者、スタッフの脆弱性の違いを考慮して、それぞれの用途に必要な水質を決定することは複雑な作業です。

ウォーターセーフティプラン(WSP)は、世界保健機関(WHO)が医療環境を含む建物内の水の安全性を管理するために推奨しているアプローチです[3]。イギリスでは、WSPの開発と実施を支援するために、イギリスの規格協会がBS 8680:2020「Water Quality : Water Safety Plans A Code Of Practice」を発行しました[2]。 この規格では微生物だけでなく、物理的、化学的、放射線性を有する性質のものも含めた、あらゆる種類の危険性を特定し、関連するリスクを最小限に抑えるための計画を策定することに役立ちます。

WSPのアプローチは、Covid -19の影響を受けた建物において水の消費量が減少あるいは利用なしといった期間や建物の利用再開を行う際に、様々な用途での水の利用者にとって安全であるように管理するための理想的なツールでもあります。このプレゼンテーションでは、医療機関を含む施設内でのあらゆる種類の水の使用について、曝露される可能性のある人々へのリスクを最小限に抑えるための包括的な水の安全計画を策定する際に考慮すべき要素を紹介します。

参考文献

  • "Guidelines for Drinking Water Quality", WHO Press, World Health Organization, Geneva/Switzerland, 2017
  • Institution, B.S., BS 8680:2020 Water quality. Water safety plans. Code of practice. 2020, BSI: uk.
  • Cunliffe et al., "Water safety in buildings", WHO Press, World Health Organization, Geneva/Switzerland, March, 2011